キジバト親子の記録 ~ 脚をケガした ひゅー のこと ~

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オフィスのバードサンクチュアリー・鳥庭に通ってくる、キジバトたち。
もう数年、毎日見守っていると、結構いろいろなことが解ってきます。
今回はキジバトの子育てから、ちょっとキビシい掟(オキテ)のことを、ちょっと書いてみます。
 
まずは本編の主役をご紹介。
この春に生まれたばかりで、 名前が無いと不便なので私たちは 「ひゅー」 と呼んでいます。
彼は、ウチの鳥庭をテリトリーの要として、それこそ時には争いでボロボロになりながら、もう三年以上も頑張って死守しているオス、「ポー」 と 「クー」 の間に生まれました。
キジバトのつがいは永続的なものではなく、最近気付いたのですが 「クー」 だと思っていた、現在常にポーといっしょにいるメスは、実はクーではなく、新しいクーでしたので、新しい方を最近は「ひゅーママ」 と呼び、前妻のクーは 「オリジナル・クー」 略して 「オリクー」 と呼んでいることは、まあ余談です。
また 「クー」 という名前は、かつて一緒に生活したヒナ、私の放鳥記に登場する 「くー」 とは、おそらく別固体ですので、私的には ひらがな と カタカナ で区別しているのですが・・・。
 
3月も終わる頃、鳥庭に現れた3羽のキジバトのうち、一羽は見るからに幼鳥でした。
あの個性的なホウ斑が無く、時に羽をパタつかせながら親といっしょにエサをついばんでいる光景は誠に微笑ましく、まさに孫でもできたような幸せな気分で見守っていました。
ところが、数日後。
現れた ひゅー の左脚は元のほうから折れ曲がるようにして外反し、殆ど利かないようでした。
バランスをとるために体を傾けながら脚を引きずり、時にバランスをとるために羽をパタつかせる様子はとても哀れで、とっさに 「長くはもたないかも・・・」 と感じました。
ただでさえ弱い幼鳥ですので、ケガそのものもかなり厳しく見えるのに、この状態では補食中に狙われる確率もかなり高くなるはずです。
 
せっかくこの世に生まれ、危険なヒナの時期を乗り切り、自由に空を飛べるまでになったのに。
せっかくこうして出会えたのに・・・。
 
救いは親がエサ場として、かろうじてココを教えていること。
もう一つ、ポーとひゅーママが一緒に行動し、付き添っていること。
この時点で一度、ひゅーを 「確保」 すべきかどうか、大いに迷いましたが、まだまだそれは序章でした。
数日後、ポーが ひゅーを攻撃する光景を目の当たりにすることになります。
親離れを促す行動・・・、ここはあくまでも ポー のテリトリーなのです。
それでも、ひゅーママが一緒に行動していましたので 「オスは薄情だなっ」 などと好き勝手なことを云っていられたのも、またほんの数日間。
ついに ひゅーママ が子どもを追い払う行動に転じました。
 
それこそ最初は軽くいなすようでしたが、日を追うにつれ撃退行動は苛烈になっていきます。
ひゅー の脚は改善が見られず、さらに悪化しているようにさえ見えましたが、親の行動規範に酌量の余地は無いようです。
ほんとうにキビシい種のルールです。
「このままでは、ひゅーを確保するタイミングを失うことになる・・・」
との焦りから、実は捕獲作戦を決行したのですが、脚はどうでも、そこはハネモノ。
もう少しのところで取り逃がし、かえってバツの悪いことになるかと心配する結果となりました。
 
作戦はあえなく失敗に終わりましたが、その際に考えたプランは次の様でした。
まず第一に、脚を自然治療できるものかどうか。
自然環境の中では難しい ”休養期間” を与えることで、治るものなら治してしまえ。
とは云っても、かつてヒナから育てたくーさんとのような信頼関係があるわけではないのでもちろん暴れるだろうし、エサも思うように食べるかどうか・・・
 
それがダメそうなら、動物病院への相談と治療。
野鳥を病院へ持ち込むと没収されるように聞きますが、どうせ生まれの地は追われているわけだし、治りさえすれば、後のことは鳥獣保護団体に委ねてもよろしかろう・・・
という考え方でした。
 
いずれにしても、捕獲作戦は(作戦はあっても、決行は行き当たりばったりの下策)失敗したのですから、
AプランもBプランも、クソもないワケですが、事前の覚悟のようなものは、どうしてもいろいろと必要です。
 

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それでもひゅーは、何とか私たちの元へと通い続け、隙をついてはエサを食べられるだけ食べ、そして生き抜いています。
会えない日もあり、翌朝の出社時や辺りを歩く時など、どうしても ”行き倒れ” の ひゅー がいやしないかと、目が泳いでしまいます。
 
この数日、にわかに鳥の世界はキナ臭くなってまいりました。
カラスはそこに通行人がいることも、車が通っていることすら気にならない様子で壮絶な死闘を繰り広げていますし、我が鳥庭にも一気に侵入者が増え、ポーのスクランブル回数が目に見えて増えています。
キジバトも、なかなかに忙しいのです。
 
必然的に大事な庭を荒らされないようにと、ポーとひゅーママの縄張り監視時間が長くなり、可哀想な ひゅー はと云えば、結果としてなかなかヒトに近寄ることができません。
昨日は ”来たのかな?” という気配はあったものの、姿を見る前に早々に追い払われるようで、一度もエサにありつくことはなかったと思います。
そして今日、ポーがいない隙に どこからともなく ひゅー が舞い降りました。
 
ケガからもう10日以上、経つでしょうか。
初めて、治癒の気配のようなものを感じることができたのは、私たちには大きな喜びでした。
「もしかして、治癒の方向に向かっているのかもしれない。」
という ”希望” のようなものが、この文章を書くエネルギーとなりました。
少しだけ、外反が目立たかなったし、その脚に体重を載せているような・・・ 気がします。
僅か2週間ほどの出来事に過ぎないのですが、きびしい環境に耐えて生きてゆくというのは
”こーゆーことなのかっ”  と感心するほどに、ひゅー の盗み食いもずいぶんと堂に入ってきました。
逃げっぷりも鮮やかで、2ブロック先の空から、追っ手を振り切りながら私の元へ一直線に舞い降り、わずか3秒ほどの間、目についたコーンを2粒ほど飲み込んで、そのまま逃げ去りました。
 
「もう大丈夫」、などと云えない状況に、何ら変わりはありません。
他所では食べ物にありつけないのではないか?
ネコに捕まるのではないか? イタチだって、いるし。
あんなにヨタヨタしてたら、車に轢かれるんじゃないか?
 
でも、とりあえず今日をたくましく生きているし、明日を生き抜こうとするエネルギーを、感じるのです。
私たちも、もう捕獲を考えません。
そんなこと、しなくて済むに越したことはないと思うのです。