私はどうやらググルに好かれていない様で、例えば籠のへりにいるところへ顔を近づけると、あからさまに反対側へ、いちばん遠い所へじりじりと移動してゆきます。
”ぐーぐーるー” と名付けられたオカメの雌、グーグーとかググルとか、呼んでいます。
ショップで売れずに一年数か月を過ごしていたところで出会うことになったのですが、私はそれまでコザクラインコとばかり関わってきておりましたのでオカメインコのことはよく知りませんでした。
必要以上に立ち上げられた(105度くらい?)冠羽の意味するところも知らずに、のこのこと近寄ってきた私への拒否反応、今もはっきりとお覚えております。
「寄るな 触るな 見つめるなっ!」
その不思議な冠羽を持つ生き物に、思いもかけず強く魅かれて連れ帰ったのですが、今にして思えば当時、ググルと出会う少し前にヒヨドリの雛を育て、そして放鳥したための喪失感が、同じようなサイズのオカメに向ったのかもしれません。
彼女はまた家に連れ帰ってからが、本当に大変でした。
まずは胃の中のものを機関銃のようにパラパラと吐きちらし、私たちを大いに慌てさせ、それから三日ほど続いたハンガーストライキ。
冠羽を立てて目を見開き、クチバシをぎゅっと閉ざし・・・、とにかく何も口にしてくれません。
コザクラたちに手伝ってもらい、目の前で 「美味しいねー!」 と食べて見せたり・・ 思いつくアイデアはすべて実行しましたが効果も無く、これ以上続くならショップへ連れ帰り、元の環境で食事だけでもさせてもらおうかと考えたほど、とにかくカタクナなのです。
それでもいつか、水をのみ、そして餌をついばみはじめ・・・
危険な期間を何とか乗り越えることができたのは幸運だったかもしれません。
そしてやっと、恐るおそるでも私たちの肩に乗って落ち着けるようになり・・・
そして、改めて理解しました。
彼女は飛び方を知らない鳥であること、飛んだ経験が無いということを。
鳥は飛行訓練などしなくとも羽ばたいて舞い上がることくらい、本能的にできます。 が、そこは狭い部屋の中。
浮力のコントロールができませんし、何といっても着地がうまくできません。
とにかく練習させねばと私たちも必死でしたが、コザクラとは違う大きな体躯、一たび飛べばスピードものり、傍らで見ているとハラハラしますし、事実、リスクを伴いました。
結果的にググルは何度も壁に激突しては落下、鼻血を出し呆然とする表情を今でも忘れる事ができませんが、数年経った現在も着地が下手で、落下もします。
そのたびに冷や汗をかきますが、私たちは(できるだけ)彼女に自由に飛んで欲しいのです。
2016年・熊本地震の夜、私たちはちょうど会社からの帰路、車中で被災しましたが、その日ググルは留守番中、家で籠の中。
駆け付けた時は地震発生から15分ほど経過していたと記憶しておりますが、籠床で動かず、血まみれの姿で呆然としているググルの姿は痛ましいものでした。
血の付いた羽がそこここに散らかった惨状からも、相当なパニック状況であった事は一目でわかりました。
何とか命を落とさずに済んだ事は幸運でした。
夜も暗くなってからのドライブ、籠を出るとぐぐるは必ず助手席側、彼女の肘の上に陣を取ります。
それが使命か仕事かの様に、外を流れる暗闇と街の光を一生けんめい見続けます。
見ていると頻繁に何かに驚き ビクっ と怯えているのですが、それでも見張りをやめようとはしません。
だいたい好きなようにさせておくのですが、臆病なわりに頑張る姿と、まれに助手席の彼女に ”何かありました” と報告しているような眼差しで見つめるのが可愛らしく、夜のドライブを楽しませてくれます。
今はもう見ることができませんが、震災まで住んでいたマンションへの帰り道にはいつも外を見続けていたググル。
マンションへ到着する最後のクランク道を曲がると、必ず ”着きましたけど・・・” と教えてくれたのが、今は懐かしい記憶です。
とにかく不器用で、おっとり、やっぱりちょっとおバカな鳥、ググル。
ですが、ググには小さな望みがありました。
それは コザクラの あじょ と仲良くなること、憧れているのが見ていて良く解ります。
いまだにアジョが近くに寄ってくると、頭を低くペタンコこにし、一人で奇声を発しています。
写真はぐぐるが初めてアジョとお近づきになれるチャンスを得た時のもの。
頭を低く差し出して 「毛づくろいして下さい」 と、ググルにしてはかなりの積極アピールですが、アジョは不審な顔をしています。
ところでオカメインコ。
いつも思うのですが、こいつら ”やってもらう” のが専門?
コザクラは互いにやって欲しくて頭を下げ合ってる様子もよく見かけますが、オカメが
毛づくろいを ”やってあげる” シーンを一切目にしないのは、ウチだけでしょうか?
クロとはあまり仲がよくないので相手がいないのかもしれませんが、コザクラたちは自分たちもヒトに撫でまわしてもらう代わり、時にはヒトにさえアクションを返してくれます。
オカメはそれも一切なし、やってもらう専門です。
まあ、可愛いからどうでも宜しいのですが。
ところでググルは今、我が家で最も大きな籠 ”パラキート” に寝起きしています。
今まで用意していたものと比べると巨大とも云える、この籠。
年下ですが、相方のクロといっしょに住んでもらおうと奮起奮発して求めたものでした。
籠を組み立てて、まずはググル。
変化や新しいものにめっぽう弱いと思っていましたが、それがどうでしょう。
すんなりと入り、そして中を動き回り
「 ググルはコレ、気に入りました! 」
もちろん言葉はありませんが、見てりゃわかります。
続いて、今度はクロ。
「 何か変っ、入りたくないっ!」
こちらは嫌々、見てりゃわかります。
「まあ快適だから、とにかく入って」と二羽を押し込み、様子を見ることにしたのですが、結果はすぐに出ました。
クロが、ダメなのです。
どちらかと云えばいつも愉快で楽しいクロの表情が違う、いら立ちをあらわにする。
挙句の果てには私たちを攻撃するわで、こりゃあ無理だなと悟りました。
クロにしてみればパラキートも嫌だし、ググルと同居も嫌だったかもしれません。
短時間の同居はいつもやっておりましたので、これだけ空間が大きければ平気と思っていましたが、致命的な結果やどちらかの消耗戦にならぬ様、一晩で同居は解消。
せっかく籠を減らせると思っていたのに、それもこんな巨大なのが増えちゃって・・・
いっそ元のサイズに戻そうかとも思いましたが、ググルの 「気に入ってマス」 という表情を見ていると、今さら取り上げる気にもなれません。