グースの越冬地を訪ねて・第二日 2023年12月1日 伊豆沼の塒発ち ~ 蕪栗沼の塒入り

明け方の月

■ 伊豆沼の塒発ち  

熊本では野生のグースに出会う機会はほぼありません、ハクチョウ もしかり。 それがここではどうでしょう、10万羽?

グースは主に マガン ということですが、そもそもその マガン を実際に見るのは初めての経験です。 今回の旅でどんな新しい出会いがあるのか、それも大きなテーマの一つでした。 

私たちが宿泊した施設は沼を見下ろすようなロケーションの宿、この日はここ、目の前の伊豆沼で 塒発ち を体験する計画です。 起床は5時、夜が明けてからでは間に合いません。 防寒対策を万全にし、出陣です。

 

 

夜明け前、薄暗い湖畔を見渡すとおびただしい数の グース と、それに紛れて目立ちませんが相当数の カモ たち、そして多くの ハクチョウ がところ狭しと休んでいます。 寒気を通して伝わってくるのは塒立ち前の緊張感や静けさではなく、むしろ喧噪。 この状態がどれくらい続くのか、塒発ちの時刻というのはだいたい決まっているようでしたが・・・ 

その時は突然訪れます。 湖面を埋め尽くす雁たちが一斉に羽ばたきます。 鳴き声と羽音・肌で感じる風圧、テイクオフの瞬間です。 湖岸に佇む私たち、そのすぐ目の前で起こる出来事はレンズなどでは伝えることのできない 超パノラミック な世界。 私たちのすぐ頭上を行く雁の群、先に発って次第に遠く小さくなってゆく群、いく層にも重なり合った万を超える数の鴈が織りなす風景にしばし心を奪われます。 

生涯忘れ得ぬ体験でした。 いろいろと大変だったけど、ほんとうに来てよかった。

 

 

■ ハクチョウ の世界  

 

残った ヒシクイ と ハクチョウ

ここの ハクチョウ は沼底をさぐって泥まみれ

雁たちの塒発ちは完全な「一斉」というわけでも無いようで、いくつかのグループに分かれて段階的に、それでもごく僅かな時間の中でほぼ完全に行われました。 雁は一斉発ちのような習性が強いのかもしれませんが ヒシクイ など、一緒に飛び立たない鳥ももちろん見られます。 その代表格が ハクチョウ でした。

ここでは オオハクチョウコハクチョウ も見られるようで、後からリファレンスしてみると確かに両者を確認することができます。 

雁たちの飛び去った沼は少しだけ平静を取り戻し、青い空の光が少しずつ水面を支配してゆく中、残された広い水面を ハクチョウ たちが活発に動き始めます。

初めて見て、初めて感じるイキイキとした ハクチョウ の姿。 しばし楽しみながらの写真撮影となりました。

 

雁たちはいわば ”垂直離陸” のグループで、一斉のテイクオフは瞬発的で見事なものです。 対して ハクチョウ はものすごく長い距離を要する ”水切りテイクオフ” で、その時に発する羽音もヘビー級です。 水面を大きな翼ではたいている音か、パン・パン・パン・パン という連続した破裂音の様な音があちらこちらから聞こえてきます。 とにかくスゴい音でした。 

 

テイクオフ



■ ハクガン を見つける  

この地に集う雁の中、数は多くはないようですが ハクガン も混じっているということでした。 情報としては頭に入っていた私たちですがいざ実際の 塒立ち を目の当たりにし、積み重ねてきたイメージトレーニングは霧散。 写真撮影も、もう何が何やらわからない状態に・・・ 拙さと甘さを呪うばかりです。

そんなバタバタの写真を後で見返していると、中に数枚 ハクガン が写っているものを見つけました。 実は現場でもすでに発って離れていく群の中、白い鳥の群が見られて 「すわ ハクガン か」 と撮影した経緯もあったのですが、この機会しか無いとなれば、せめてもちっと近くで、落ち着いて撮影したかった。

 

 

 

■ 野良マガン  

南方からやって来た私たち的には充分に寒くはありましたが、それでもたかだかマイナス2度程度。 山際には雲も掛かる光のきれいな日の出の景色。 塒立ちを体感した私たちはこの日、「せっかくなので中尊寺へ」 と観光を計画しておりました。 「この鳥見のチャンスを観光でつぶしてしまってよいのか?」 についてはずいぶんと悩みましたが、せっかく立てた計画です。 「道すがら畑のトリなど見ながら、のんびり行こうや」 と初志貫徹、奥州へと足を延ばしました。

ほんとうに 「ところ変われば・・・」 というやつで、というかさっきまで沼に居た10万羽が近くの畑に散っているのですから、道中ではそこかしこの畑で マガン の群に遭遇します。 この辺ではごく当たり前の風景であることを思い知らされます。 

 

湖畔で出会った カシラダカ

野良マガン、私たちを警戒中。

道端で出会った ノスリ

 

■ 蕪栗沼の ヒシクイ

夕暮れ前、くつろぐ様子の ヒシクイ

ひとくくりに「伊豆沼」 と言ってしまいそうですが、この地方にはいくつかの 「沼」 があり、野鳥のメッカとして伝え聞くもう一か所がこの 蕪栗沼(かぶくりぬま) でした。 この日はそこで 塒入り を体験する計画。 車を置いての散策になるため、少し早めに到着して周囲を歩いて回ります。

藪が茂り草丈のある沼畔の道を進みます。 その道は両側が水域となっているようで、ほどなく右手より低く唸るような、時には人の話し声にも似た妙な鳴き声が聞こえてきました。 ポイントを探って覗き込むと、さほど大きくもない水場でしたが多くの水鳥が集まっています。 妙な声の主は ヒシクイ。 こんな声であったとは、初めて知りましたし、こんなに間近で観察する機会ももちろん初めてです。

 

 

ヒシクイ は以前、北九州・海浜域の池で見たことがありましたが、ごく遠目の観察であったことを覚えています。 今回こんなにも間近で見ることができて、写真も撮れたりして何も言う事はありません。

茶系一色トーンの地味な羽衣ですが優し気な面立ち、ゴージャスな羽衣。 ただこの鳴き声には正直、驚きました。 マガンなどとは全く異なる音域です。

 

 

 

そうこうするうち、辺りは次第に夕暮れの様相。 楽しみにしていた蕪栗沼、塒入りの時間です。 ところがまたして、もろくに写真が残っていません。 暗い時間帯の撮影をあきらめてのこと、ダメな写真は何枚撮っても同じというのはわかっています。 多少の動画は撮影しましたが、目の前に繰り広げられるパノラマにただただ魅入る時間となりました。 ワイドの画像は動画からのキャプションです。 

 

 

伊豆沼で 塒発ち を経験しましたが、この 「塒入り」 というのは似ているようで全く異なるダイナミクスです。 彼方から次々と押し寄せる波がやがて空を覆い、銀色に輝く水面にどんどんと吸い込まれていく様子、想像をはるかに超えるものでした。

 

シジュウカラガン

今回この蕪栗沼で出会えるのではと期待していたのが シジュウカラガン でした。 残念ながら薄暮の夕暮れから押し寄せる膨大な数の雁の中、望遠レンズでの撮影はおろか目視で見つけることができませんでした。 翌日この地を離れる時も 「残念、会えなかったね」 と話したものです。

今回撮影の中に シジュウカラガン を発見したのは帰宅後に動画をチェックしてのことで、飛来した雁の中、あるところで結構な数が混じっていることに気付きます。 であれば写真にも写っているのではないか? 

調べてみると、確かに居ます。 マガンの群に合流するかたちで飛来しています。 写真はいずれも一度、ボツ写真に分類された程度のものでしたが慌てて再保存。 リアルタイムで出会う喜びとは全く違うものの 「居たんだ、あの中に・・・」 というのも、また自分達らしいかなと苦笑するところです。 ただ、写真や動画を見ているとけっこう明るく見える傾向がありますが、やはりあのロケーションでは肉眼で見つけることなどは、できなかったろうと思っています。