■ 南三陸のコクガン
コクガンのいる風景を初めてみたのは雑誌でのこと。 寒そうな北海の景色の中、群を撮影した特集記事でした。 そのコクガンを今回、実際に自分の目で見れるかもしれない。
今回の旅程は 4日間、その最初のイベントが南三陸のコクガンでした。 期待を胸に、仙台空港から一路、南三陸へと向かいます。
★北上川の河口域
高速道を降りて北上川の河口に沿うように、海へと車を走らせます。 豊かな水をたたえた大きな水域をもつ河口域。 癖でどうしても鳥の姿を探してしまいます。
探せば・・・ いるに決まっています。 ただ、このあたりからいちいち引っ掛かっていると、目的地にたどり着くのはいつになることやら。
ハジロカイツブリには以前も九州で出会っていますが、群を見るのはこれが初めて。 カンムリカイツブリが合流している様子がよくわかります。
★南三陸へ
河口域を過ぎれば、海。 まず訪れたのは 海のビジターセンター。 コクガン についてはもちろんWEBで情報を集めていましたが、なにぶん相手は気ままに移動するトリたち。 ちょうどこの施設あたりで観察できるらしく、駐車場に車を乗り入れます。
建物に入るのももどかしく、堤防を登って見渡す海・・・ 青い。 いつも見ている海とは違う景色、遠くへやって来たことを実感させてくれます。 しかし・・・、コクガンはいるのでしょうか。
どうも探鳥の要領を得ないのでセンターの方に話を伺うと 「ああ、けっこう居ますよ。ついて来て下さい」 と2階の展望デッキへとご案内いただきました。 望遠鏡をセットして 「覗いて見て下さい。ちょうどこの辺のラインを見ていくと見えますよ。」
お礼を言ってスコープを覗くと・・・ 居た! 距離は遠いですが、カラフルな浮きの合間、波間に浮かぶ見慣れない黒いトリたち。 まぎれもなくコクガンでした。 しかし、遠い。
少しでも近づくべく施設の方にお礼を言ってセンターを後にします。 海沿いを少し進んでほど好さそうな駐車スペースを見つけ、カメラを手に海辺に近付きます。 先ほどよりもかなり近く、少しは撮影もできそうな距離に彼らを捉えることができました。 しばし、時間を忘れて撮影に没頭します。 何も考えず、仕事も忘れ、頭を空っぽにして楽しむ。 夢のような時間の始まりです。
いつものことですが、黒いトリの撮影は(白も)難しい。 飛翔シーンの撮影チャンスもありましたがコト成らず。 それでも彼らのイキイキとした様子を垣間見ることができました。
白い首輪の模様が美しい、首が太い。 眼も黒い、クチバシが可愛い。 初めて見るコクガンに夢中になりましたが、一つだけ。 「コクガンよ、おまえらもか」
観察していると コクガン がいっしょに採餌している オオバン をマークしていることに気付きます。 潜って上手にエサを採ってくる オオバン、それを コクガン たちが横取りします。 どこかで見た風景、ヒドリガモ も ヨシガモ も、みな同じ行動をとります。 どうして オオバン はそんなにオヒトヨシなんだろう。 さほど怒る様子も見せずに奪われるままになっています。
いい奴なんだな。
南三陸の海、憧れのコクガンを見て、楽しんで・・・。 ただ、この青い海の美しい眺望、どうしても楽しいだけの情景とはなりません。 どのエリアを訪れても新たに築かれたコンクリートの堤防、築造からまだ間もないその白い姿が目に沁みます。 青い海と、白い堤防。
現在も復興の土木工事がそこかしこで続く、三陸の海。 被災された多くの方々に心より哀悼を捧げます。
■ 憧れの伊豆沼へ
10万羽の雁が織り成す風景とはどんなものだろうか。 初めて伊豆沼の話を聞いて、そして想いを巡らせました。 可能なものなら、体感してみたい。
コクガン につかまってすっかりタイムラインが押してしまいましたが、チェックインを後回しにしてどうにか 「塒入り」 には間に合って沼へ到着。 多少なりとも下調べをしたものの気持ちも上ずり、観察地点を値踏みする余裕もありませんでした。 少しだけ車で沼畔を流して決めたポイント、後から考えると悪くはなかったようにも思えるのですが、何分にも大きな広い沼。 一度でどう攻略できるものでもないようです。
車の窓を開けると・・・辺りに広がっているのはトリたちの気配。 一羽のそれでは無く、大きな群が発する独特の厚みのある音がいやおうなしに飛び込んできます。
私たちをまず出迎えてくれたのは ハクチョウ でした。 塒入りの直前、もちろん グース や カモ もいるにはいるのですが岸近く、圧倒的に風景を支配しているのはたくさんの ハクチョウ たち。 大きなトリが発する独特の鳴き声に包まれます。
オオハクチョウ、コハクチョウ ともにいるようでしたが彼らはヒトの存在をほとんど意に介さないようでした。 近くで眺めている私たちをほとんど気にしていません。
家族ユニットでの行動と聞いていますが、グレーの羽衣は幼鳥若鳥。
以前、冬季の熊本港エリア、かなり遠く離れたところに飛来しているハクチョウを眺めた経験がありました。 それこそ子供の頃、動物園などでは出会っていたかもしれませんが、野生のハクチョウをこんなに間近で見るのは初めての事。 居るところにはいるとつくずく思い知らされましたが、そんなことよりもとにかくまず圧倒されたのはその 「ハクチョウのいる風景」 そのものでした。
ハクチョウたちの合唱に酔いしれる間もなく、辺りは夕暮れに。 この時間にもう日の入りとは、熊本から来た私たちにはとてつもなく早く訪れた夕暮れの時間。 どこからともなく、彼らがやってきます。 「塒入り」の始まりです。
後から写真整理をしていて気付きますが、私たちはこの最初の 「塒入り」 でろくな写真を残すことができませんでした。 暗さに比較的強い動画を撮影していたことも一つの理由、ほかに準備不足もあって次第に暮れてゆく中、飛来するトリたちの撮影は、特に望遠系の撮影はとても難しかったようです。
ただそれよりも、おびただしい数の群が飛来する様子を目の当たりにして景色に吞み込まれた・・・ 圧倒され、放心してしまったようです。 明け方の澄んだ空気の中、その圧倒的な数と羽音、響き渡る鳴き声、エスカレートしてゆく ハクチョウ たち合唱。
心が揺さぶられ、自然と涙がこぼれました。
これが・・・ 私たちが見たかった景色。