深夜、私たちもちょうど眠りの深淵にたどり着いた頃の出来事でした。
一階で鳥たちが眠っている辺りから「ターンッ」と大きな音が響いてきました。 普段から聞き覚えのある音で、ウスユキバト が止まり木から紙の敷いてあるケージの床へ飛び降りた時に発する音。
ただ・・・ この時の音は何かが決定的に違っていました。 音は大きく鋭く、深刻な響きをもって瞬時に私たちを覚醒へと導きました。
さらに、続いて放たれた声は間違いえることの無い ウスユキバト の悲鳴。
「キョ キョ キョ キョ ・・・」
異変に気付きベッドを飛び出した妻の悲鳴が階下に響きます。
初めの音は ラリク が止まり木から床へ落ちた音
そして、声は恐らく ラリク 絶命の叫び
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ずっといっしょに暮してきたウスユキバトの ポアロ と ラリク。 ショップでは ツガイ とされていましたが、やがて二人とも女の子であることに気付きます。 だって、二人で競うように卵を量産しましたから。
長く売れることなくショップで足止めとなっていた二羽の小さな鳥。 「見かねて引き受けた」というのは全く違うのですが、我が家へ迎えることになった時に店員さんが 「どちらを連れて帰りますか?」 といった言葉が忘れられません。 止まり木の上にふくれて並ぶ小さな二つのお団子。 生まれたベルギーの地から、ずっといっしょに過ごしてきた二人。 引き離すことなど、できる訳がありません。
ラリクについては、何か生来の問題があるかもしれない事を薄々感じていました。 くちばしが伸びてしまう症状があり、エサをついばむことが難しい様子を見かねて一度は獣医さんにトリミングをお願いした事もありました。 当初からずっと毛並みが悪く、折れた羽根の抜け替わりもままならない事など、何か代謝もうまくない様子。
それでも、何か特別な手当てもせず、いっしょに楽しく暮してきました。 私は楽しかった。 ただ・・・先ごろ少し生気が無い様子に驚き、体重もかなり落ちていたために毎晩時間をつくり、上手くついばむことができない ラリク がゆっくりと食事をできる環境を整えたのは数週間前の事でした。 サプリメントなども与えながら様子を見て、体重もはかって 「ずいぶん回復した」 と思ってしまった・・・
異変はそんな中で起こりました。
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残された ポアロ が可哀そうで、愛おしくて・・・ たまりません。
彼ら鳥たちが連れの ”死” を如何に認識するのか。 鳥たちと長く暮らしていれば当然行き当たるケースです。 経験から、それを嘆き悲しむとか、そういう事では無い・・・ と感じています。
ただ・・ 静かな部屋の中、ポアロ のひときわ悲し気な哭き声が響きます。
ほー ほー ほー ほっ・・ ほー ほー ほー ほっ・・
どこかに隠れて出てこない ラリク を呼んでいます・・・ たまりません。
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寒い日が続きます。 夜間などは連れ添う相手がいなくて、さぞ寒いでしょう。 体調を落としていた ラリク のためにもケージ用のヒーターが付けてありましたが、やはり寒いだろうな。
ラリク の分も、ポアロ と遊ぼう、楽しい時間を過ごそう。
仕事から帰宅後の遅い時間になってしまうのは、我が家では致し方ない事。 それでもゆっくりとした時間をつくり、テーブルにゴハンも用意して・・・ 時には他のインコにかき混ぜてもらいもし、とにかくいっしょに居る時間をつくります。
ウスユキ隊はショップで長居の、所謂 「アラドリ」 と云うこともあり、親しみを見せてくれるくらいにはなっていましたが、慣れ合うことはありませんでした。 それでも、ポアロとの距離が少しずつ縮まっていくような感覚を覚えます。
虚弱ということもあったのでしょうが ラリク の方は、まあ自発的にということは無かったにせよ、掌に休ませてあげればしばらくじっとしている事もあるくらい、軽いスキンシップはとれるくらいになっていました。 今にして思えば、いつも ポアロ と私の間には ラリク がいました。
ポアロは元気で飛び回るのも上手なこともあって、スキンシップは殆どありませんでした。 ただ、鳴きまねで呼び掛ければまめに鳴き返す性格、鳴き合い呼び合いは大切なコミュニケーションだと考えています。
ラリク が逝ってしまってからというもの、ポアロ が極端に鳴き続けるようになった気がします。 一日中でも鳴いているようにさえ感じます。
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そんな生活が数日、続きます。
私がテーブルでPC作業をしていると、ラリク もそうでしたが、ポアロ もキーボードの上に載って休もうとします。 何でその場所が好きなのか、あまりよく解りません。 が、とにかく大好き。 私がマウスを使っているうちにノートPCのキーボードを占拠します。 タイプのために手を差し出すとテケテケと立ち退きますが、気付くとまた占拠。 仕事になりません。
二人で並んでキーボードに乗り、隙あらば目を閉じて眠ろうとしていた姿が微笑ましく、私には幸福な時間でした。 今は ポアロ が一人、キーボードの上でじっと私を見つめています。
その時、くつろいでいた ポアロ が首を幾度か縦に振り、そして突然ふわりと私の頭に舞い上がりました。 ポアロ が頭に乗った・・・?
ほー ほー ほー ほっ・・
予期せぬ突然の出来事。 しかし・・・ なんて皮肉な事でしょう、涙が溢れます。
ポアロが自分から乗ってきてくれたのは心から嬉しい事、ただそれはラリクを失う事で初めて実現するとは。 こんなに悲しく、こんなに切ないことが、あるでしょうか。
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ラリクが逝って、もう10日ほど経ったでしょうか。 ポアロにはできるだけ、どんどんと新しいことをさせるようにしています。 毎日が新鮮、とまではいきませんが、できるだけ放鳥の時間をとることで、私たちとの距離も無くなっていきます。
ポアロ はほんとに体の小さな鳥ですが、他のインコたちが出ていると果敢にモビングを試みます。 勇敢で気の強い ポアロ。 以前はラリクを守っているかのように目に映りましたが、一人でもポリシーは変わらないようです。
ポアロ との新しい生活。 嬉しい事も、楽しい事も、まだまだ探していけそうです。 それでもやはり、ポアロ がケージの中でポツンと一人、目を閉じている様子には、なかなか馴染めそうにもありません。