キジバトのくーさん 2026 3月10日 ~ 4月12日

 

■ エピローグ 

ヒトはその人生で、いったい何度くらい傷ついた鳥に出会うものでしょう。 「キジバトのくーさん」 と題して起稿するのはこれが二度目のこと。 かつてキジバトのヒナを救出し、成鳥となるまでいっしょに過ごした経験があります。 同じ経験を ヒヨドリ でも一度。

何でこいつら私の前に現れるんだろう・・・ とつくづく思います。 朝方に出社してみたら、シャッターの前に白鳩がうずくまっていたり、弱って飛べない スズメ が植木鉢の脇にこそっと逃げ込んだり。 倉庫の壁に アオバト が激突して血を流して落ちていたり。

 

■ 出会い 3月10日

その日は帰宅が遅くなり、出会いは夜の9時ころであったと記憶しています。 河の脇から細い裏道を通るルート。 電灯もまばらで暗い道ではあるのですが、お宮さんの前を通り過ぎて進むと、行き違いもできない細い道のちょうど真ん中あたり、車も避けづらいくらいのところに何か影が浮かびます。 デコイ? ・・・というか、よく知っているシルエット。 鳩だ。

 

車を降りて歩み寄りますが、伏して動かず。 いったいどうした、何があった? ダメなのか?

眼は開いているようでしたが、差し伸べる手にも反応しません。 弱っていても、つかまえようとすれば何らかの抵抗を見せるのが野鳥の通例、暗かったというのもありますが、どうもただ事ではないようでした。

 

出会ってしまったものを、見過ごすことはできません。 住宅地の抜け道として、車の往来もそれなりにある場所。 そして何よりも普段から猫が多くいる路地。 河川敷も近く、夜間は四つ足が闊歩していてもおかしくない場所です。

状況を考えれば、この鳩はこのままこの場所にうずくまっていれば、それこそ15分も持たないかもしれません。 逆に、つい今しがたここへ落ちたということも想像がつきます。 これを運命と呼ばずに何と呼べばよいのでしょう。   

「行こう。」

運転を代わってもらい、手指で締め付けないようにホールドします。 きつく締め付けないように、そして一瞬のスキを突かれて抜けられないように。 すぐにそこ、目と鼻の先の我が家へ連れ帰ります。 

バタつくことも無く、静かなものでした。 かといって一見しての外傷が見られず、目は見開かれていて生体反応は有り。 ただ、とにかく静かに動かない状態。 

この時の私たちにはこの鳩がどんな問題を抱えているのか、わかりませんでした。 もちろん動かずに蹲っているくらいですから、例えば何かに驚いて飛び立ち、闇の中で衝突して脳震盪・・・とか、何か大きな事故があったことは想像するのですが。

 

■ 何があった?

悩んだ結果、あまり動き回れないように小さめのケージを選びました。 我家には豊富なサイズ揃えのストック鳥カゴがあります、それこそ キャリー から 大形用パラキート まで。 状況もわからないまま家に置いて行く事もできませんので、連れ歩くのに無理なく持ち運べて、中で暴れられないサイズを選びます。 水曜日、いつものローテでは 通称・オチビ隊 がお出かけのはずでしたが、ゴメンね。 しばらくはキジくん中心の生活になります。

 

さてさて、それが 「どれくらいの期間になるのか?」 など何もわかりませんが、ホールドする以上はこの鳩に何か食べてもらう必要があります。 キジバトのエサ的なものは結構ありますので、そこは安心。 ただ、エサはあっても食べてくれないと、始まりません。 これはいつも、越えなければならない最初の関門です。

依然として反応はにぶく、エサを食べている様子も観察できません。 昨日の今日ですから何はともあれライフ・セービング、水もスポーツ飲料などにして無理にも口に含ませようとしますが、そこはほぼ拒絶。 初動が思うようにならないのは、いつものことです。

改めて明るい光の中で眺めます。 何が、悪いんだろう? やはり一見してはわかりません。 ただ、元気もありません。 

 

 

■ 3月12日 そんなことになってるの?

火曜日の夜に保護され、とにかく安静にしていて迎えた木曜日。 観察していていくつか、気になることはありました。

一つは片目をわずかにしょぼつかせている気配。 何かにぶつかったとすれば、その影響か。 もう一つ、たたんだ右側の羽根が少し浮いていて、収まりが悪い感じ。 これも同じ理由かもしれません。 

ふと気付きます、正面から見て胸の下の方、何か赤い丸いものが付いている・・・何だろう? よくよく見ると、どうやらそれは6~7ミリ大の赤い木の実。 体にくっついていたものか、まさか・・・吐き戻した?

吐き戻したものがふせっている胸にくっついてしまったかと、はじめは思ったりもしたのですが。 それからようやく、水を飲む姿を見ることができたのですが・・・ そこで驚愕の事実に気付きます。 飲んでいる水が、そのまま胸から流れ出てくる! 息をのんで見守っていると、今度は水と一緒に赤い実が ポロリ とこぼれ出ました。

何てこと、羽衣に包まれて判らなかったけど、どうやら胸に切れ目があって、恐らく ”そ嚢” に入った食べ物や水が流れ出している! 

鳥が持つ、ヒトには無い臓器 ”そ嚢” のケガは鳩などでよく聞かれる話ですが、なんとおぞましい事でしょう。 飲んだ水がそのまま流れ出すなど、目を覆いたくなるような事実。 ただ当の鳩自身は表情もさほど変えず、悲鳴をあげる事もありません。 見る間にまた、赤い実が ポロリ と出てきました。 

これはどうやら、素人の手におえるものでは無さそう。 さて・・・、どうするか。

 

 

■ 3月12日 手術

事態の深刻さを認識した、木曜日。 さあ、どうする・・・時間の経過とも勝負。 最良の手段はやはり専門医に診てもらい、処置をお願いすることに決まっています。 

ただ・・・理屈はそうであってもそこは野鳥、それもキジバトなどではそう簡単にコトは運びません。 

そうでなくとも当地ではだんだんと鳥を診てくれる病院が減ってきています。 私たちは鳥と共に暮らす生活ですので、いざという時に備えていくつかの動物病院に面倒を見ていただいているのですが。 

野鳥の扱いは法令などでも縛られている場合があり、そんなのすべてを承知している訳でもありません。 今回も一応、筋道立てて公共窓口の相談などステップは踏みましたが、何も解決しないのは想定の内。 

ただ一か所だけ・・・、もしかして見てくれそうな病院に望みを託します。

「キジバトのケガなのですが・・・」

「連れてきて下さい」

 

何とまあ、鳥の扱いが上手なのでしょう・・・ などと感心しながら先生の処置を見守ります。 そばで見ているこちらがクラクラするような時間でした。 手際よく患部の確認が進みますが、その際に先生が ”そ嚢” の中に残った残留物をピンセットでひょいひょいとつまみ出していきます。 例の赤い実が、次から次へと出てくる出てくる。 どんだけ食いためてんだ、と驚くばかりですが、こんなにいっぱい詰め込んだ状態で、何らかの衝突事故、そして大けが。 裂け目は7センチほどもあったようで、自分でも経験しないほどの手術。 もちろん麻酔も無しですが、鳩は上手にタオルにくるまれて押さえ込まれ、終始・神妙にしていました。 最後は縫合までやって、ひとまず処置が完了しました。

ここで書いても届きませんが、先生、本当に・・本当にありがとうございました。

 

 

■ 安静にしていたのだけれど

その後数日間、あのようなおっかない術式を目の当たりにすれば当然ですが、緊張感をもって ”安静” を意識して過ごさせました。 見た目に大きな変化があるわけでは無いのですが 「悪くはなっていない」 という感触を得ます。

この頃はもうその鳩を 「くー」 と呼んでおりましたので、オスメスも好く分かりませんが、本稿では以降 「くーさん」 と呼ぶことにします。 私にとって、キジバトはみな くーさん です。

さて「安静」となれば小さなケージがよいのですが、当初からの床上スタイルは羽や脚を清潔に保つことができません。 そのため低い位置に バー を設置したところ、やはりその方が落ち着くらしく、すんなりと受け入れられました。 ただ、狭いので置きエサとバーへの行き来昇降にスペースが足り無いのが見ていてわかります。 

調子も悪くは無さそうなので、朝晩の移動にはキャリーを、会社では大きなケージに入れ替えてあげようと思ってしまったのは、人情。 今まで他のトリたちなどでの経験と比べ、都度の入れ替えでバタつきはするものの、基本おとなしいし大して問題は無いと思ったのですが。

この頃ひとつだけ、ちょっと気になることがありました。 それは イヤな匂い でした。 くーさん がバタつくたびに、ちょっと嫌な匂いが立ちます。 何かなぁ・・・? 

患部を見られること自体、くーさん にはストレスでもあり暴れるきっかけなので避けていましたが、恐る恐る確認します。 すると・・・ 縦に縫い合わせたキズの上の方が、少しダメみたいでした。

悩みましたが、これこそタイミングということで、病院で経過を診てもらうことに。 

「こんにちは、先日診ていただいたウチのキジバトなんですが・・・」

「ああ、あの時の・・・」

「ええ、おかげさまで元気にしています。」

「えっ? あぁ、そうですか、それは良かった。」

とは電話先の看護師さんの言。 もしかして回復の見込みは薄かったのかしら・・・などと苦笑しつつ、再診をお願いしました。

やはり少しキズが開いたようで、再度の縫合処置を受けました。 ただ、当時と比べれば元気になってきているのは一目瞭然。 それ故に動かしてしまったとも云えますが、どんな時も最良と思えることをしてみるしかありません。 今回はひどい結果とはならず、また、このタイミングで先生に診ていただけたことは安心につながりました。

またまた、安静に気を遣う数日を過ごすことになります。

そして数日、私たち素人の感覚ですが 「生命の危険」 は乗り越えた・・・と思いました。 ほんとうに良かった。 いわば くーさん はあの時一度 ”死んだ” のです。 それを想えば、ここまでの回復は立派なものです。 実際、ここまで私は怖くて くーさん の写真を撮ることができませんでした。 でも、やっとそこは抜けた。

ここからは、また別のテーマで戦うことになります。 くーさん を 「空へ帰すことができるか」 です。

 

■ 不在 3月27日 ~ 29日

あの日、あの時、くーさん が現れた時にはもうわかっていた気がします。 この3月末に旅行の予定がありました。 スケジュール帳を見て、その前に放鳥できることはよもや無いだろうな・・・と悟ります。 旅行なんぞ滅多に行くことも無いのに、なぜこのタイミングで君はやって来たんだ?

出かけている間が心配・・・は当然思うところですが、こんなのを預けられる方はたまったものではありません。 それが無くとも他のヤツら(コザクラ・ボタン・オカメ×3・ウスユキバト)の世話を押し付けられるのですから、加えて大けがの野鳥となればなおさらです。

とにかく手のかからない様、手を掛けさせない方向で準備をして出かけました。 後で聞いたところでは、やはりこのハトだけはエサを変えようとすればバタバタするし、食べてくれないし、何を考えてるかも分からず嫌だったようです。 そりゃあ、飼い鳥と野鳥ですから。

 

■ くーさんとの生活

無事に不在の期間を乗り切り、僅かながらも好くなってゆくように見える くーさん 中心の生活が続きます。 朝は少し早く起床して世話をし、会社へと連れ出し、いっしょに帰宅する。 部屋の明かりを段階的に、早めに落としてゆくようにする。

アオバトに大好評だった ブルーベリー を くーさん にも食べてもらおうとしたのですが、実が大きすぎるのか、散らかすことはあってもきちんと食べることはできないようでした。 仕方なく穀物中心の食事、麻の実は大好きです。 まあとにかく食べてなんぼ、欲しがるものは惜しみなく与えました。 あっという間に時間が過ぎてゆきます。

 

■リハビリ 4月4日~

休日ではなく仕事日・・・とはいえ、他人が居ない分だけ少しだけ自由な土曜日。 ぼちぼち試さなければとは思っていた事をこの日に決行しました。 くーさん の飛行テスト。 出会いから、はや25日が既に経過しています。 

飛ばせるのはそれ自体、かなり勇気の要ることでした。 悪いことに想像力を働かせればキリが無いのですが、衝突や落下、また傷が開く事さえあるかもしれません。 逆にこれ以上閉じ込めておくことでの運動不足ももちろん、飛行能力が低下してゆくことも問題です。 試しに飛ばせるとしたら室内になりますが、一度放ってしまうと今度は捕まえるのが一苦労、捕獲のために追い立てることは最も避けたい。 消灯して捕まえられるよう、窓の外も暗くなる夜7時くらいに試すことにしました。 

テーブルの上にケージを据え、センターの出入口を開きます。 

「さあ、おいで」

自発的に出てくるのを長い時間待ちます。 外の様子をさかんに伺っている気配、もどかしくとも待たされようとも、せかしてはいけません。 すべて くーさん のペースで、自分から動くようにすることで、少しでも事故を避けたい想いがあります。 

かなり長いこと、カゴの出口できょろきょろと辺りを見回していました。 できるだけきちんと空間認識をしてほしい。 すると、バサッと両羽根を枠に当てつつも、ようやく外へ出てきました。 そして、今度はテーブルの上でまた数分。 いくらでも待ちます。

ようやく飛ぼうと意を決したのは、表情など見ていれば解るのですが・・・、それからがまた長い。 これは、どこを目指すのかが定まらないのもあるかもしれませんが、ちょっと怖いというのがあったかもしれません。 何せ、ひと月近くはばたいていませんし、外にすら出ていないのですから。

 

 

すると、突然のテイクオフ! が・・・あえなく墜落。 故障のためか、チカラが弱っているからかは分かりませんが、思ったより浮力が得られずに目指した近場のターゲットにさえ届かず、という状況でしょうか。 狙いを外したことでまた慌ててはばたきましたが、同じ結果を繰り返して今度は床へ。 

「そっか、やっぱり飛べないんだね・・・」

世の鳥たちはいとも簡単に飛び、舞い降りたり留まったりしていますが、思えばこれはどんなに高度な技でしょう。 何かが少しでもかみ合わなければ、そう上手くはいきません。 

「今日はこれくらいにしておこう。」

ということで、ここからはリハビリの開始です。

 

 

翌週は毎日連夜、ヒトが居なくなった事務室で飛行訓練となりました。 やり方は同じ、せかさず好きなようにさせる方針でした。 ただ見ていると、初日から少しずつですが、もちろん数か所の留まるポイントも定まり慣れての事なのでしょうが、短い距離とはいえフライトに安定感が感じられるようになりました。 テストの時は、やはり 「あまりにも久しぶりのフライトで」 の失敗であったものと、今は思います。

鳩を室内で飛ばせたら、例えば浮力を抑えられずに天井にも当たったりと、不時着などもしてもっと滅茶苦茶になると思ったのですが、このハトは違いました。 何というか ”目標” は低いのですが、反面とても慎重なようで、見ていて怖くなるシーンはありません。 

ということで 「追い立てない」 と言っていた方針を、少し変更。 というのは、放っておくと一つ所に留まって落ち着いてしまい、まったく飛んでくれません。 せめて10分おきくらいには次の場所への飛行を促すようにします。 

そしてとにかく毎日、少しずつでも前の日よりも多く、羽ばたく機会をつくるようにしました。 見ていて、昨日よりは今日、今日よりは明日・・・という実感が多少なりとも得られたことは幸いでした。 

落ち着いてしまって 「飛ばない・動かない」 という事態を改善すべく、週の後半にはうちのインコたちにも協力してもらいました。 ハトというのは不思議なもので、インコたちはハトを怖がりませんし、ハトも同じです。 とはいえあまりにも気安く近づくと くー は嫌がっていましたが、どちらかといえば微笑ましい風景。 あまりにも可愛いので写真や動画も撮らせてもらいました。 

 

 

■ 決心しなければ・・・

あんなにひどい傷を縫い合わせて、そんなに簡単に治癒するものかと思いますが、どうもキズについては山を越えた気がしました。 もちろん 完治 とはいかないのでしょうけれど。 「こいつら、ヒトが思うより治るのが早いし、免疫力も高いので感染症なども基本的に想定せず、薬は飲ませない方針」 と先生の言葉を改めて実感します。 再処置をお願いしてすぐに、気になるイヤな匂いも無くなりました。 眼もパチッと開けています。

一つだけ、見た目にもわかって気になる事がありました。 それは、普通に留まっている時も常時見られるのですが、たたんだ右羽が少し上がっていてキレイに収まっていない状態、これは当初から感じていたもので、これがある故に 「もしかして飛べないかも・・・」 という心配がありました。 それでも、コントロールして見事に飛んで見せてくれましたが、Maxパワーやトルクを発生してコントロールできるかは、こんな小さな室内では分かりません。  

ぼちぼち 「放鳥」 を考えなければいけない段階に来ていました。 ケガで飛行能力が落ちているとすれば、それは非常にネガティブな問題です。 ただ、究極的に試して確認することは、できない。 このジレンマと、そしてプレッシャーと戦う日々です。 

「放鳥」は考え方・・・というかポリシーの問題です。 少し考えれば簡単に想像できますが、野生は厳しいもの。 野鳥にとって翼の不具合など故障はそのまま死に直結する確率問題です。 今回、少しでも問題を感じるなら放さない、それこそ一緒に生活することも一つの方策です。 

ただ、くーさん に外の景色を、それこそちょっとだけでも見せた時に感じる、あの衝動。 飛び立つことを渇望してやまない眼。 これを押し止めることなど私にはできない、と悟る瞬間です。

のんびりとした午後の時間の中、離れて置いてあるカゴからクーさんの鳴き声が聞こえてきます。 抑えが効いて遠慮がちですが、それでも確かにキジバトとわかる、野太くて唸るような、あの声。 この頃はよく鳴くようになりました。 仲間を呼ぶ声に他なりません。

室内で飛ぶ様子を ハイスピード撮影 して羽の動きを確認します。 一見きれいに羽ばたいていますが、僅かに右羽根のパワーが出ていないかも・・・と思いました。 ただ、それを尾羽根など上手に使ってコントロールしている感じ。 飛べないわけではない、ただ、完全でも無いかもしれない。

繊細な生命体のことです、なかなか 「完全」 など望めるものでもないでしょう。

「頃合いかな・・・ ・・・ ・・・ 週末に、そのつもりでいて」 と妻に伝えます。 すかさず彼女が週間天気をチェック。 わざわざ嵐の中に放すこともありません。 放さない理由の一つも欲しいところですが、しばらく悪くも無い天気、とでていました。

 

■ 4月12日 旅立ち

一度死んだはずのキジバト・・・生き延びるために私の前に現れたんでしょ? 

空へ帰す日が、来たよ。

朝からとにかく食べたいだけ食べさせ、時間は午前の9時半ころ。 放すのはもちろん、出会った場所。 

お宮さんがありますので、カゴを据えて妻と一緒に祈願。 そして、足元に置いたカゴの扉をそっと開きます。 もう君を止めるものは、何も無い。 じゃあね、元気でね。

 

 

カゴの中から少し遠慮がちに外を見渡すのも、今回は僅かな時間。 頭を軽く上下に振ると、目の前の大きな楠の木の幹へ向かって一直線に舞い上がります。 

「できた、飛べた! それでいいんだ。」

室内では試すことができなかった、垂直離陸の能力が目の前で証明されました。 私は感極まって、流れる涙もしらず天を仰ぎました。 これで、良かった。 良かったんだ、これで。

くーさん はさっそく楠の枝葉の中へ、上手に飛び移っていきます。 それこそ、良く知った場所なのでしょう、その動き方は野生の鳩そのもの、何の躊躇も失敗もありません。 そして、私たちの視界から消えてゆきました。

 

■ 終稿にあたり

稿末となりましたが、お世話になった方々に感謝と御礼を。

さぞ迷惑であったでしょう、いつ死ぬかもわからない不愛想な山鳩を預かってくれた義母・姉。 「何が起こっても文句は無いし、仕方ないこと」と言われても、とても嫌なシチュエーションであったことと思います。 

そして くーさん を二つ返事で快く受け入れて下さった先生、スタッフの皆様。 私がどう ”うちの鳩” などと言おうと野鳥であることはすぐわかるでしょう。 見事な処置、毅然としたポリシー、今回このご縁が無ければこうして放鳥までたどり着く事は無かったと思っています。 本当にありがとうございました。 

そして妻へ、どうしてこうも鳥を呼び込んでしまうのか・・・それは分からないけど、今回もいっしょに向き合ってくれてありがとう。 あなたも鳥という生物が大好きで、私がやらなければ貴方が同じことをする・・・というのはよく知ってはいますが。