2022年11月30日 こんなところで? 小さな放鳥記・アオバト編

 

■ 玄関あけたら・・・ アオバト 

11月も終わる、いつもと変わらない水曜日のお昼前、事件は起こりました。

オフィスに併設の倉庫で ドーンっ というものすごい音。 いったい何が起きた?

急いで倉庫へ行くと、中で作業していた相方もやはり 「今の、何?」 と驚いた顔。 

「ってことは、外か?」

なるほど音の様子は何かが倉庫の薄い壁に衝突した音とすれば合点がゆきます。

敵襲か、隕石か?

 

確認すべくオフィスの扉を開けると、地面にうずくまるハト一羽。 なんで君がここに? まさか、さっきのはお前が衝突した音なのか・・・ いったい何が起こった?

 

うずくまるハトはアオバトのオス、そのそば数メートルの近くには現れた私を警戒する一羽のカラス。 状況から見れば、カラスに追い立てられてパニック気味に壁に衝突して落下したということか。

こりゃまずい・・・ とにかくハトを救出に走ります。 意識はある様で私が近づくとすかさず逃げようとしました、が、朦朧としているようで思うように動けません。 間違いなく脳震盪の状態です。

 

玄関あけたら、アオバト・・・ 私の方が目を疑いました。 何で? 

どうやらアオバトはこの時期に移動するようで、その途中で遭難したものか。 アオバトはいろいろな場所で遭遇したという記事が見られます。 私は今季・夏、海岸に海水を飲みに来る彼らの撮影を試みましたが、普段は山の方に居ると聞いていました。 冬場は山から下りてくるのでしょうか。

 

急ごしらえの段ボール箱

確保して気付きましたが、クチバシの先端からけっこう流血しています。 知らなかったのですが、そこにも血管があるようでした。 つかまえようとすれば首を激しく振り、クチバシの先端から血がほとばしります。 まずは出血を止めなければ、まずい状況になるかもしれません。

あの衝突音から想像すると相当なスピードで衝突したと思え、落命してもおかしくない状況であったと思います。 安普請のペラペラなサイディングで運がよかったか。 ハトは飛びの名手ですから、どうして壁に衝突などする羽目になったのか、不思議な気がします。 青空の映り込むガラスでは無く、ただの壁ですから。

 

■さて、どうしたものか。

野鳥を確保した場合はいつもそうですが、さて・・・ どうしたものか。

キジバトを育てた経験があり、ハトには慣れているつもりですが・・・ そこはアオバト。 確保した時に感じましたが何と立派な体躯、突っ張る脚の強さも相当なものです。  

原則的には 獣医 → 鳥獣保護センター となります。 その日は仕事が異常に忙しくて連れて行くのも困難でしたし、その保護プログラム、今回のケースでは鳥のためにベターな選択であるか、判断ができませんでした。

 

まずは彼の状態がどうなのか、安静にさせて見守る事にしました。 出血が止まらない様なら獣医に相談、その他に内出血や骨折が疑われれば、やはり診察治療が必要。

と云う事で、まずはクチバシの血をぬぐい取り、消毒。 にわか作りのダンボール箱にちぎった紙でマットを施し、暗く蓋をして安静に。 クチバシ先端を痛めているので興奮させるとそこここにクチバシが当たり、さらに出血する恐れがありましたので、とにかく暗くして安静に。

落ち着いた後、ダンボールでは真っ暗なので半透明のプラボックスへ移動。 これなら中の様子も多少は分ります。 とにかく安静にして、今日はお休みなさい。

 

その日は コザクラ と ボタン を連れて出勤していましたが、彼らはとばっちりを受けるハメに。 野鳥と飼い鳥のマッチアップは御法度、と云う事で、彼らはお昼にやむなく強制送還となりました。

 

■翌日・出血がなかなか止められない 

出血など数時間も休ませれば止まると考えていましたが、少し考えが甘かったようです。 どうしても使ったり、当たったりを繰り返してしまう部位でもあります。 時には閉じ込められた苛立ちを示すかの様に、ボックスのカベをポシポシと突きます。 まあ、こちらの思う様には万事、運びません。

 

 

プラボックスでも、やはり長く底に臥せっていることは彼にとって好ましくありません。 糞で汚れますし、水など置いているとどうしても辺りに飛び散らせてしまいます。 不潔になりますし、羽も汚れてしまいます。 

やはり、鳥は木に留まらねばなりませんし、木というものは鳥たちを落ち着かせます。

そのため、昼の間は空いていた大型のケージに移すことに。 移す時はやはり動揺してバタつき、けっこう大変なことになりましたが、その後は止まり木の上で落ち着いた様子に。 地ベタより、やはりそちらを好むことは見ていてよくわかりました。

が、一つ問題が発生。 今度は止まり木から動こうとせず、何時間も床面に降りる気配がありません。 結果としてエサを食べず、もちろん水も飲みません。

 

 

 

アオバトの食事

しばらく滞留となれば、適切に食事をさせねばなりません。 でも一体、君はいつも何を食べてんの? てことでさっそくWEB調査・・・ えっ、ドングリ? 食べんの? 

ドングリはさて置きブルーベリーなども食べるようなので、仕事の帰り道にパックのブルーベリーを購入して帰宅。 その他にもフルーツなどはいけるクチのようなので、リンゴとバナナもついでに買って帰りました。

 

食事させるのは簡単なことではないと、想像はしていました。 この小さな生命体が、いきなりの環境激変に耐えるだけでもいっぱいいっぱいでしょう。 とにかく気が向いたらとプラボックスの中に水とフルーツを盛って置き餌にしました。 が、なかなか食べてはくれません。 焦っても致し方ないので、ここからはガマン比べになります。 

 

まずは指で口元へもってゆく作戦ですが、ガン無視。 というか攻撃されたり逃げ回ったり、ドタバタになってしまいました。

とすれば次は例によって押さえつけてクチバシをこじ開けて突っ込む作戦。 トリはある程度口に押し込むと、そのまま飲み込んでしまう習性がありますので、最初はこれを敢行しましたが、いちいちそんな事やってられないし、彼もそうですが、二人で抑え込んで食べさせる私たちにもストレスです。

ということで、ここからは工夫。

 

かくなる上は 「目の前で美味しそうに食べてみせる」 作戦。 一見、アホな作戦に思えるかもしれませんが、これは腹スキさんにはけっこう効果があります。 彼の目の前で美味しそうにゴハンを食べて見せるわけです。 すると・・・ 見てる見てる。 で、食べ出した!

しかし残念ながら、今回これが効いたのはその1回だけでした。 ただ、最初の飢餓状態を切り抜けることができてどれくらいホッとしたことか。 これが効いて助かりました。

 

集めてきたドングリには無反応・・・

効果絶大だったのは ブルーベリーの樹 作戦。 手指を差し出すと怒るので、というか怒るのは構わないのですが、何せ出血の止まりかけているクチバシをまた当ててしまい、血がにじんだりしてましたので、怒らせたくない。 そこで、この作戦。 

 

木の実を食べるんだから・・・ ということで、適当な木の枝を探して用意し、その先にある小枝ににブルーベリーをいくつか刺して、木の実を装います。 その状態で顔の近くへ寄せてみると・・・ パクリ。 まったくストレスなく食べることが分かりました、食べる食べるっ。 人間様の作戦勝ちに、思わずハイタッチ。

このたくましいボディー、どれくらいの量をいつも食べるのかは検討がつきませんでしたが、お腹が満たされれば食べなくなるだけです。 とにかくこれで、食べてもらえず衰弱させる恐怖とストレスが吹っ飛びました、食べる食べる。

 

ブルーベリーはパクり

ブルーベリーの他にもう一種類、好んで食べるものを発見。 意外でしたが、それはミカン。 でもこれもほとんど水分のようなもの。 とにかく食べさせねばと、どんどんフルーツを差し入れますが、片っ端から水分を排泄してゆく様子を見ていると、これでは 栄養不足 になるのではないか・・・とまた不安がつのります。 

社会復帰の前に痩せさせてはいけないと、何か脂肪分や炭水化物を食べて欲しいのですが、ナッツやハト餌の穀物など置きエサには目が向けられません。

それならと、今度はブルーベリーの実にナッツやヒマワリの種、えん麦でも麻の実でもなんでも、できるだけ仕込んで口元へ。 食べる! そう、どうせこの種族は実をかじることも無く 「丸呑み」 ですから、中に何が入っていようが関係ありません。

この方法で、いろいろなものを食べさせることができるようになりました。 もっといろいろと世話をやいていたいけど、彼はもうすぐ・・・ 明日にも空へ帰らなければいけません。 三日目となり、どうやらクチバシの出血も止まって乾いたようです。 彼をホールドした時の力強さやノビする時の羽根の様子、そして目チカラ。 大丈夫でしょう、やっていけるさ。

 

■惹きこまれるような瞳 

以前に遠景で撮影した時に感じていましたが、改めて間近で眺めるその瞳は神秘的です。 淡いブルーのアイリング、外周を彩る深紅のリングはくるくると表情を変え、繊細に煌めく深い瑠璃色の虹彩、その奥には漆黒の瞳孔が潜みます。 

 

神秘的な瞳

 

■空へ・・・ お別れの時。

放すのは午前中に、あまり遅くなり過ぎない時間帯が好いと決めていました。 日曜日のオフィス。 場所についてもいろいろと考えを巡らせましたが、あえて彼がトラブルに遭遇したこの場所で放すことに決めました。 

朝食をゆっくり摂らせます。 いつまでも眺めていたい、美しい姿。 なんて美しい鳥でしょう。 

がっしりとホールドし、いざ、外へ。

 

君の世界へ、帰りなさい!

キジバトのくーさんを放した時がそうであったように、あとは青空と白い雲の風景でも添えて感傷に耽りたいところですが、この日はあいにくの薄曇り。

さらに手から放たれた彼は、空へ向かって力強く羽ばたいてゆく・・・という私たちの期待を裏切り、目の前のネットフェンスへ着地。 
まさか飛べないんじゃないでしょうね? 食い過ぎて重い・・・?

 

 

と思う間もなく、今度は少し離れた木々の枝葉の中へ飛んで行きました。 まあ、飛べることは飛べるのか。 あの色彩を持つ羽衣ですが、これが黄色い枯れ葉混じりの枝葉に飛び込んだとたん、全く識別できなくなりました、ホントによくできている。

感心しきりですが、ここはデリケートな局面。 無要のプレッシャーをかけるのは好ましくありませんので、それ以上は騒がず、近寄らず、探さず。 

およそ 96時間 に及んだ共同生活、ここでお別れとなりました。 

 

いつも思うのですが、基本的には野生動物の生命力や本能を信じています。 水場を探したり、食べ物を見つけたりする能力、そして仲間を見つけて合流する本能的な力。 それでも、温かな部屋内から冬の寒さが厳しくなってきた戸外へいきなり放ってよいのか、クチバシ以外にケガなど無くきちんと飛べるのか? はぐれた仲間に再び会うことができるのか、独りでやっていけるのか? 

心配事をあげればキリがありません。 

行きがかり上、彼と僅かな時間を共に過ごすことになりました。 今回、良いと信じることをし、できる事をやってみました。 根源的に彼の運命にコミットすることなど、できる筈もありません。 本来出会うこともなかった彼と、私たちの時間。 偶然の事故によってわずかに交わった瞬間の記録となりました。